クレームというものは、忘れた頃にやってくる。
忘れた頃に、しかもこちらが油断しているタイミングを狙い撃ちしてくる。
ある平日の昼下がり。
勤め人として平和に仕事をしていると、スマホが震えた。
――2号物件。
この表示を見た瞬間、嫌な予感しかしない。
そして予感は、だいたい当たる。
今回の主役は入居者さんではない。
そう、隣人である。
内容はシンプル。
「悪臭がひどい」。
来た。
これは来たぞ。
2号物件はペット可。
しかも「何匹も」飼っている。
猫か、犬か、それとも大家には見えない別次元の生き物かは分からないが、とにかく数が多い。
私はこれまで、すべての物件をペット可にしてきた。
空室対策にもなるし、ペット需要も根強い。
……と、信じて疑わなかった。
しかし、ここで一つ学びがあった。
商業地域は別だ。
商業地域、つまり隣との距離が異常に近い。
窓を開けたら、隣の家に手が届きそうな距離感。
「ご近所」というより、ほぼ「同居」。
この距離感でペット可。
これは今思えば、なかなかのチャレンジ設定だった。
2号物件。
まだ大家として駆け出しだった頃に買った物件だ。
その当時は、そんなこと考えもしなかった。
「ペット可?いいじゃん!」くらいのノリである。
無知とは恐ろしい。
とはいえ、現実は待ってくれない。
すぐに入居者さんへ連絡した。
証跡を残すため、ショートメッセージで送信。
内容は冷静に、事実のみ。
……が、返事が来ない。
1日経過。
音沙汰なし。
そこで一言、追加で送る。
「メッセージを見たら、返事をください」。
すると――
即レス。
おお、返す気はあったのか。
要求しないと返事をしないタイプらしい。
でも、返すだけまだ良い。
既読スルーより100倍マシだ。
返ってきた内容は、反省の文章と
「掃除をします」という言葉。
とりあえず、最低限の対応はしてくれるようだ。
というわけで、今回はここで様子見。
クレーム対応は即解決するものばかりではない。
多くは「観察フェーズ」に入る。
また何かあれば、次のラウンドが始まるだろう。
できれば始まってほしくないが。
大家業は、家賃を集める仕事ではない。
人と人の距離感を調整する仕事だ。
特にペットと隣人の距離感は、要注意である。


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