3号物件のトイレでトラブル連絡を受けたのは、1週間前。
入居者から「水が止まらない」という。
常にではなく、止まったり止まらなかったりする状況だ。
原因の目星はついている。
「浮き玉」か「ボールタップ」か。
DIYブログでよく見かける、あのパーツだろう。
しかし、ここのトイレはとにかくクセが強い。
普通、タンクは便器の後ろに鎮座しているものだ。
だが3号物件は違う。
手洗い台の下にタンクが隠れている特殊構造。
スタイリッシュだが、メンテナンス性は最悪だ。
リフォーム時の記録を掘り返してみた。
しかし、肝心の型番を控えていない。
メーカーすら不明。
過去の自分のガバガバ管理を呪う。
現場で中を覗くまでは、正体が一切つかめない。
まさに「開けてびっくり玉手箱」状態だ。
大家の腕が試される瞬間。
重い腰を上げ、工具箱を抱えて現地へ向かった。
手洗い台のパネルを慎重に剥がす。
ようやくタンクとご対面だ。
刻印を確認。天下のTOTO製。
ライバルのINAXとは、内部パーツの形状が絶妙に違う。
間違えれば、ホームセンターを何往復もする羽目になる。
意を決してタンクの蓋を開ける。
まずは構造を脳内に叩き込み、写真も撮った。
しかし、ここで奇妙なことが起きた。
なぜか今は、漏水がピタリと止まっている。
決定的な証拠が見当たらない。
大家が来た途端にいい子ぶる、あの現象だ。
浮き球を動かし、止水弁の挙動をチェックする。
中のゴミを払い、各部の動作を何度も確認した。
結局、どこも壊れているようには見えない。
今日の作業は、構成をじっくり眺めるだけで終わった。
何も交換せず、蓋を開け、確認し、また閉じた。
気分はまさに、開腹手術に踏み切った外科医。
しかし処置できず、そのまま閉腹した時の虚無感だ。
「俺は何をしに来たんだ」という思いが頭をよぎる。
原因は、一時的なゴミの噛み込みか。
あるいは、浮き球が気まぐれに拗ねていただけか。
この手の「自然治癒」は一番厄介だ。
十中八九、再発する。
入居者には「また漏れたら即連絡を」と伝えた。
再戦の火種を残したまま、現場を後にする。
だが、手ぶらでは帰らない。
それがDIY大家の意地だ。
帰りにホームセンターへ寄り道する。
現場で見たTOTOの内部構造。
適合する補修パーツを売り場で特定した。
「次、コールが鳴ったらこれを掴んで突撃する」
シミュレーションは完璧だ。
ついでに、グラついていた手洗い蛇口。
あれもこの際、シュッとした新品に変えてやろう。
3号物件のトイレ戦記、第1ラウンドは引き分け。
第2ラウンドの準備は、もうできている。

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