勤め人の昼休み。
いつも通りの食事を終え、午後の仕事に向けて少しばかりの休息を取っていた、その時。
スマホが震えた。
画面には、融資を打診していた信金の担当者様の名前。
「ついに承認か!」
意気揚々と電話に出た私を待っていたのは、無情な一言だった。
「……誠に残念ながら、今回はご希望に添いかねる結果となりました」
……。
…………。
一瞬、思考が止まった。
審査に落ちること自体は、不動産賃貸業をしていれば珍しいことではない。
だが、今回は事情が違う。
今回の物件、契約条件は「融資特約なし」。
そう、私は逃げ場のない背水の陣を自ら敷いていたのだ。
融資がダメなら、自己資金での現金決済だ。
平和だった昼休みは、突如として「1分1秒を争う資金調達バトル」の場へと変貌した。
「マズイ、これはマジでマズイ……」
震える手で操作したのは、職場のPCではない。
自分のスマホだ。
実は、職場のスマホから証券口座にログインするなんて、これが初めてのこと。
普段は自宅のPCで、ゆったり操作していた。
しかし、そんな悠長なことは言っていられない。
「ログインパスワード、何だったっけ……」と焦りながらも、なんとかログイン。
狙うは、コツコツと積み立ててきた「新NISA」。
本来なら長期保有すべきものだが、背に腹は代えられない。
職場の隅っこで、祈るような気持ちで全売却のボタンをポチッ。
さらば、私の非課税枠。
さらば、複利の魔法。
しかし、現実は甘くない。
即解約しても、実際に現金化されて口座に振り込まれるまでには、約1週間のタイムラグがある。
カレンダーを睨みつけ、脳内計算機をフル回転させる。
次にすべきは、仲介さんへの連絡だ。
「あの……信金さん、ダメでした。……はい、ダメだったんです」
「でも!自己資金で決済します!」
当初予定していた決済日には間に合わない。
その事実を正直に伝え、日程の延期を懇願した。
仲介さんの「……承知いたしました。売主様にも調整してみます」という言葉に、ようやく細い蜘蛛の糸を掴んだような心地がした。
だが、これで終わりではない。
決済が終われば、私の銀行残高は「ほぼゼロ」になる。
修繕リスクを考えると、このままでは丸裸で戦場に立つようなものだ。
そこで、これから即座に動くのが「マル経融資」の申請だ。
いわゆる、決済後に融資を引く「バックファイナンス」。
これから書類を揃え、申請の準備に入る。
一時的に現金はカツカツになるけれど、マル経さえ通れば、なんとか息を吹き返せるはず。
ふと我に返り、思う。
「なんて綱渡りだ。大丈夫か、自分?」
客観的に見れば、崖っぷちで全力疾走しているような状況。
でも、不思議なもので、心のどこかで「これを乗り越えれば、また一つ強くなれる」なんて思っている自分もいる。
不動産活動もそうだが、「最初だけちょっと大変な決断」は、だいたい後で自分を助けてくれる。
さて。
仲介さんへの連絡も済み、方針は決まった。
あとは、NISAの現金化を進め、マル経の申請に全力を注ぐだけだ。
いつ頃、平穏な日々が戻るだろうか。
数週間後か、はたまた忘れた頃か。
まあいい。
今は目の前の決済を、確実に、静かに、遂行するだけなのだから。

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