5号物件に、内見が入った。
この一報だけで、大家の心拍数は確実に上がる。
スマートウォッチを付けていたら、たぶん「軽い運動を検知しました」と言われている。
結果から言うと――
今回は決まらなかった。
正直、少しだけ肩の力が抜けた。
期待していなかったと言えば嘘になるし、かといって落ち込むほどでもない。
大家業って、だいたいこんな感情の揺れ幅で進んでいく。
室内は問題なし。
それどころか、かなり良い。
1年かけて手を入れてきた5号物件。
壁、床、設備。
派手さはないけど、「ちゃんと住める」状態には仕上がっている。
給湯器も元気。水も出る。電気も点く。
当たり前だけど、この当たり前までが長かった。
じゃあ何が理由だったのか。
駐車場。
前面道路の幅が狭く、駐車場の出し入れには切り返しが必要。
それが毎日だとストレスになる、という判断だった。
……うん、わかる。
これは本当にわかる。
なにせ私は、この1年、5号物件に通い続けている。
車の出し入れは軽く100回以上。
最初の頃は、切り返すたびに「もう少し広ければな」と思っていた。
ただ、正直に言うと――
慣れる。
人間ってすごい。
切り返しを繰り返すうちに、運転がうまくなる。
ハンドル操作も、ミラー確認も、無駄が減る。
「今の一発でいけたな」なんて、謎の成長を感じる瞬間すらある。
でも、これは完全に大家目線。
入居者さんにとっては、そんなスキルアップイベントはいらない。
毎日、何も考えずに停めたい。
ストレスは少ない方がいい。
それが普通だし、正しい。
しかも駐車場は、DIYでどうにかなる話じゃない。
木を切って広げるわけにもいかないし、
塗装で誤魔化すこともできない。
だから今回は、潔く転進。
ありがたいことに、すでに次の内見予定も入っている。
これは本当に救われる。
しかも担当の仲介さんが凄腕。
振り返ると、私の物件はすべてこの方が決めてくれている。
もはや「仲介さん」というより、流れを作ってくれる存在だ。
そろそろ繁忙期。
空気も、少しずつ動き始めている。
焦らず、でも止まらず。
期待しすぎず、でも希望は持って。
今日も私は、
5号物件の駐車場で切り返しをしながら、
次の内見を静かに待っている。

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